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一位の木(イチイのき)について解説
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文:韮澤やすおみ(ピノッキオ)
はじめに
この記事は、木工玩具制作ユニット「ピノッキオ」のリーダーである韮澤やすおみが寄稿させて頂きます。
鶏口舎さんが用いている一位(イチイ)の無垢材ですが、とても素敵なストーリーがあります。
この一位で制作依頼したお客様が、さらに作品を気に入るのではないか?
と考え、この記事を企画しました。
そもそも一位は高級無垢材。
一位の無垢材は高級であり、銘木と呼ばれます。
その由来は諸説ありますが、平安時代頃からしばらくの間、正一位という高い身分の方が使う笏(しゃく)を
一位の材で作っていたことが由来している、というのは定説です。
さらには、成長が遅いのでなかなか太くなりません。
直径70センチを超えるような一位は大径の部類と言えるでしょう。
直径1メートルまで育てば大変な金額で取引されるものになります。
そして、一位の材は、経年変化により飴色に変色するのですが、その色が素晴らしいと言われております。
そのように、経年変化により素晴らしい色に変化していく銘木は、一位か唐松か?と言われております。
そのどちらも高級銘木。建物だけで坪単価150万円以上かけ、名大工さんが作ってくれるちょっとした高級注文住宅で使われる材です。
日本の文化でよく語られる、「詫び寂び─わびさび」の、「寂び」の世界の材なのです。
春夏秋冬、そのループを何十回も、何十年も越えて、より味が出てくる。通好みの銘木です。
今回これから語る「一位の板」。
全面に特殊な木目「杢・もく」が現れている、総杢盤(そうもくばん)です。博物館級の価値があります。鶏口舎さんのコレクションです。
極端に長寿の一位はこのような木目になるようです。
鶏口舎さんは、一位を用いて、「寂び」を味わえる作品を彫っているという訳です。
鶏口舎さんが使っている一位は、
一位の中でも、圧倒的な価値
先ほど、一位は直径70センチを超えていれば太い部類に入ると伝えましたが、
この一位はなんと!最大部分では直径2メートルもあったのです。
異次元級に太いのです。
幹回り、すなわち外周ですが、このクラスの古い木では、円とは言えない形状に育っているものですが、
直径を2メートルと仮定し、その数字から外周を計算すれば約7メートル程度です。
実際には凸凹していますから、もっと長い数字でしょう。
そんな大きな一位は、かなり珍しいとの事。
過去においてもそこまで長生きだった一位はそうはないと推測されます。
(北海道 八紘の水松は一位であり推定樹齢2000年。岐阜県の治朗兵衛の一位も推定樹齢2000年。
ただし数本の木が融合してしまった合体木であればそこまでの樹齢ではない可能性もある。
外見上は合体木に見える。合体木であれば各木としては細い。
今回のテーマの一位はほぼ単体木でありそれらの名木よりも明らかに太径)
長寿祈念や平和の永続を願うような、そんな想いを作品に籠めるには、この一位が向いているのではと思います。
ここに至るストーリー
20年程前に、営林署が木曽の深山(国営林)で発見したこの「大変古い木曽の一位様」。(以降、大変古い木曽の一位様と呼びましょう)
営林署が発見した時、幹は終わっており、枝が一部生きていたとの事で、長寿を全うした大変めでたい木です。
生きているところを人間にバッサリとやられたのではなく、生ききった木。第二の人生、木材として下界にやってきた木なのです。
なにしろ巨大だったので、ヘリコプターで移動したとの事。
そして営林署が全国銘木展示会、通称、全銘展に持ち込み競りに掛けたそうです。その年は岐阜県での開催だったとのこと。
全銘展とは、年に一度の大きな銘木の競りであり、各地の銘木組合が持ち回りで開催されます。そして営林署も全銘展に出品し、国営林で発見した誰もが驚くような物件を持ち込んでくるとの事。
川越銘木センターの竹田社長が、大変古い木曽の一位様の出品を知り決意しました。
ぜったいに落札すると。銘木屋を営んでいて、そんな素晴らしい一位の木目を見ない訳にはいかないと。
競りが始まり、最終的には三つの業者で競り合ったそうです。
竹田社長はどこまでも競ったそうです。そして、落札に成功したそうです。
さて、ストーリーはまだまだ続きます。
大変大径だったこと、大変長く生きており、一部ダメージがあり、機械での製材が不可能だった為、
手ノコギリだけで、大きな木を製材できる、木挽き(こびき)職人さんに依頼する事になりました。
木挽き職人として世界でも有名な「林 以一(はやし いいち)」先生にお願いしました。
新木場に場所を借り、大変古い木曽の一位様を運搬し、林先生が3週間くらい掛けて挽いてくれたとの事。
なお、この業界の多くの人が、林先生でなければ挽く事は難しいだろうという見解です。
そのような意味で、林先生が挽く事は運命だったのでしょう。
ですから、鶏口舎さんがコレクションとして持っている一枚板は、林先生のノコギリの痕が残っています。
林先生も、こんなレベルの一位の巨木を挽いたのは初めての事であり、
木目は想像以上のもので、その美しさに感動していたそうです。
木挽界の巨匠が感動的というレベル。
この記事の冒頭の総杢盤(そうもくばん)の美しさは、そうは見れないものです。
林以一先生の近況。木を巡る対話(非売品)405P
ある程度小さく挽いて鶏口舎さんへ仮納品。作品のイメージが決まるとこんな感じで本製材へ。
製材から20年ほどの天然乾燥を済ませ、売りに出されていたものを、僕が鶏口舎さんに紹介しました。 ちなみに、鶏口舎さんが使用している、この、大変古い木曽の一位様は、林先生が木挽きしてくれた状態から、 さらに僕が、一つ一つ、時間を掛けて製材しているんですよ。